オリバー・ストーン監督の『ウォール街』が上映されたのは、1987年のことだ。企業買収と切り売りが平然と行われる光景を見て、「アメリカは何と恐ろしい国だろう」「日本はこうなってはいけない」と思った人は多い。だが、あれから20年、日本もそうなりつつある。ファンドと呼ばれる投資会社が、次から次に日本企業の株を買いあさり、株価を引き上げて売ってのける。付加価値を高めるためならば、解体も合併もいとわない。企業や社員のことなど、彼らの眼中にはまったくない▲今、まさに株主総会がピークを迎えつつある。この数年、ファンドへの「特別な配慮」から、株主への配当は倍増している。10年前に比べ、配当率が5倍、いや10倍になっている企業も少なくない。その反面、社員の賃金の伸び率はわずか数パーセント。それどころか、正社員を減らす動きが加速している。とりわけ大企業の役員は、社員ではなく、株主のご機嫌を取ろうと懸命だ。これでは格差が縮まるわけはない。「愛社精神」や「企業戦士」なる言葉が死語と化しつつあって当然だ▲濡れ手に粟で巨利を得たファンドたちは、またまた次の獲物を物色する。一晩で数億円、いや数十億円を稼ぐ輩もいる。こうした不埒な行いに慣れてない日本企業は、買収や乗っ取りにまったく無防備だ。武士道の国では、こうした行いは「卑怯」であり「恥」だとされたが、政府が推奨しているのだから仕方がない。一連の規制緩和は、社員ではなく、明らかに投資会社のために行われてきた。日本の古き良き伝統は、確実に崩れはじめている▲開き直れば、年金保険料を払うよりも、ファンドに出資する方が賢明かもしれない。汗水垂らして働くよりも、株式投資で儲ける方が楽かもしれない。しかし、そのような生き方に誇りをもてるだろうか。子々孫々のことを考えると、そのような社会にしていいのだろうか。カネ儲けのためであれば、手段を選ぶ必要はないのだろうか。答えは「否」である。「人に後ろ指を指されない生き方をしろ」――これが、われわれ日本人が受け継いできた「美しい生き方」の基本ではないか。
(平成19年6月20日)