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手品師が成功を収めるのは、見ている者の注意を逸らすことに長けているからだ。目くらましが上手いといってもよい。こうした手法は、しばしば政治の世界でも用いられてきた。国民の政治に対する不満を逸らすため、外国が標的にされたことも多い。はなはだ稚拙だが、安倍内閣もこれと似て非なる手法を用いている。格差問題といった重要課題から国民の関心を逸らすため、「戦後レジームからの脱却」などを掲げ、優先度の低い法案の成立を急いでいる▲安倍首相は教育基本法の改正や防衛庁の「省」への昇格を実現したと豪語している。そして今度は憲法改正のための国民投票法案の成立を目指すと意気込む。格差問題の議論を避けるためだけでなく、みずからがリーダーシップを発揮しているポーズを示したい意図も見え隠れする。さらに、国民が誰も求めていないにもかかわらず、安倍首相は憲法改正を参議院選挙の争点にしたいとも明言する。だが、ここまでくれば、目くらましではなく、単なるピンボケの類である▲安倍内閣が「ポーズの政治」に徹しようが、それは勝手だ。国民感覚との温度差は、そのまま参議院選挙に影響を与えるから、むしろ幸いかもしれない。しかし、「ポーズの政治」のため、内閣が国会運営に口を出すことは僭越の極みであり、越権行為そのものだ。当初、安倍首相は「憲法記念日までに国民投票法案を成立させたい」と語ったし、それが難しいとなると、今度は「それにこだわらない」と前言をひるがえす▲議院内閣制では、国会と内閣とは近い関係にある。とはいえ、わが国においても三権分立は基本原則だ。だから、内閣総理大臣といえども、国会運営や議事日程に口を出すことは許されない。本来、首相としてどこまで国会運営に関与してよいのか、してはならないのかは、経験から学ぶ。安倍首相が軽々に国会運営に嘴を挟むのは、恐らく悪意からではなく、単にそれを知らないからだ。しかし、「若気の至り」を差し引いたとしても、国権の最高機関である国会の権威を貶める言動に対し、議長は強く抗議すべきではないか。リーダーの経験不足から社会が混乱する例は少なくないのだ。
(平成19年3月14日)