|
コラム
|
拉致問題を政争の具として使うなかれ
官房副長官時代の安倍晋三氏が一躍ヒーローに躍り出たのは、拉致問題に対する毅然たる態度が評価されたからだ。その後もこの問題の抜本解決を掲げ、高い人気を集めてきた。自民党総裁に当選できたのも、彼のファイティング・ポーズが国民の拍手と喝采を浴びたことと無関係ではない。拉致問題の早期解決、すべての被害者の早期帰国は国民全体の強い願いである。「核問題の方が大事だ」という者もいるが、自分の子どもが被害者でも同じことをいえるかは、はなはだ疑問だ▲小泉前首相は「改革」という名の大鉈で既存の秩序を崩壊せしめ、凄まじい格差やひずみを生じさせた。その罪は大きい。しかし、拉致問題に対しては、ポーズだけではなく、実際に平壌に飛び、5人の拉致被害者やその家族を連れ戻した。プライド高きキム・ジョンイルに、拉致問題の存在も認めさせた。いろいろな見方ができるだろうし、抜本解決からは程遠いが、一定の「結果」を示せた点では評価されてよい。北朝鮮に飛んでいなかったなら、その5人とてまだ平壌で囚われの身となっているはずだ▲それに対して、安倍首相はどうだろう。拳を高く振りかざし、威勢のいい言葉は発している。去る日曜日には新潟を訪れ、拉致被害者たちにも「完全な解決を目指す」と語気を強めた。しかし、ファイティング・ポーズとは裏腹に、安倍首相、いや安倍内閣は、拉致問題を解決するため、具体的に何をしているのかが皆目見えない。米国と北朝鮮が急接近しても、真正面から異議を唱えることもしない。先の6か国協議でも、日本の根回し不足と迫力不足が目立った▲安倍首相が本気で拉致問題の抜本解決に取り組むのであれば、与野党は党派の垣根を越え、全面協力するだろう。被害者家族の高齢化も進んでいる。だが、内閣支持率を浮揚させるために取り組み姿勢を見せているのであれば、姑息だといわざるを得ない。のみならず、拉致被害者、さらには国民全体を愚弄するものだ。安倍首相は就任早々から「主張する外交」を訴えてきた。しかし、抱負や意気込みは、もういい。いま、われわれが求めているのは威勢のいい言葉ではなく、行動であり、着実に「結果」を示してくれることではないか。
(平成19年2月28日)
|