コラム

窮鼠が猫を噛む恐れあり

北朝鮮が地下核実験を行ったとの発表は、世界に激震を走らせた。さらなる実験の可能性も取り沙汰されている。同国が「核」を保有することは、東アジア、ひいては全世界の安全と秩序をいちじるしく脅かすものであり、断じて許されない。核開発・兵器を交渉のカードに使おうとすることは、まさに暴挙だ。国連安全保障理事会において、全会一致で制裁決議が採択されたのも、このためである▲国際社会が一致して北朝鮮に核開発の自制・断念を求めることは、至極当然だ。だが、いくつかの懸念もある。一つは、果たして追い込むことだけが解決の道なのか、ということだ。断固たる姿勢で臨まなければならないものの、北朝鮮は決して「普通の国」ではない。追い込み、封じ込めることにより、窮鼠が猫を噛むことになりはしないか。だから、暴発・暴走させないための手立ても必要なのだ。交渉のテーブルに呼び戻すことも、同時に考えておく必要がある▲もう一つの懸念は、わが国だけが突出した行動をとることだ。「日米運命共同体」と思っているのは日本だけである。北朝鮮がテロ行為に及ぶとき、果たしてわが国だけで対応できるのか。物理的に米国は北朝鮮から遠く離れているが、わが国とは目と鼻の先だ。拳を振りかざすのはいいが、果たして国民は最悪の事態を覚悟しているのだろうか。同国が崩壊すれば、大量の難民も押し寄せてくる。さらにいえば、突出した行動をとれば、拉致被害者の帰国はますます難しくなる。せっかく中韓両国と首脳会談を行ったのだから、近隣諸国との連携を強化することも必要だ▲強硬姿勢を見せるのは確かに格好がいい。だが、外交とはさまざまな状況を想定し、最終的に自国の安全を保つこと、そして国益の増進を図ることに他ならない。ある時点だけの判断では、国策を見誤る恐れもある。かつて国際協調の中での問題解決を目指した幣原喜重郎(外相)に、軍部もマスコミも「軟弱外交」のレッテルを貼った。だが、元老・西園寺公望は「君、軟弱外交とは何かを知っているのかね。幣原のやっていることこそ強硬外交なんだよ」と述べたという。窮鼠が猫を噛んでからでは、遅すぎる。

(平成18年10月18日)

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